インタビュー

76万人の個人情報が流出したアプリ 「全国電話帳」作者に聞く“制作の動機”

昨年10月、電話帳に登録された情報が外部サーバーに送信されるアンドロイドアプリ「全国電話帳」が公開され、約3300台の端末から約76万人分の個人情報が流出したと報じられた。同アプリは公開からしばらくで配信停止となっていたが、昨年末に「全国共有電話帳」と名を変えて復活。「絶対に入れちゃダメ!」とネット上で呼び掛けられるなど、再び大騒動になっている。

「全国共有電話帳」はユーザー同士で電話帳情報を共有し、全く知らない相手の連絡先を検索できるという仕組みのアプリ。説明文には「検索可能な電話帳データベースの充実のために、アプリ利用者の端末の電話帳とGPSの情報をデータベースサーバーに送信し、利用します」と記載されている。勝手にユーザーのデータを外部送信すれば「不正指令電磁的記録供用」の罪に問われる可能性があるが、このアプリは説明文でその旨を明記している為、「違法ではない」というのが作者のスタンスだ。しかし、前回のアプリ「全国電話帳」は規約をよく読まずにインストールしたユーザーが被害にあったのではないかと推測されていた。今回も同様の被害が危惧されているようだ。

なぜこのようなアプリが開発されたのか。その真意を聞くために、アプリ制作者の鳥取ループ氏を直撃した。

――強い批判があった「全国電話帳」を「全国共有電話帳」としてリニューアル復活させた意図や、開発のきっかけをお教えください。

ツイッターで「このアプリを復活させたのは(情報セキュリティ研究者の)高木浩光に犯罪者呼ばわりされたため、彼を釣るため」という趣旨のことを書きましたが、これは紛れもなく本心です。ですが、アプリの説明書きの通り、元々は人探し等に活用するために作成したのも本心ですよ。昔と違って、戸籍や住民票が自由に見られなくなり、固定電話が減ってどんどん電話帳が薄くなっています。しかし、誰かを探したいという要求は無くならないのではないでしょうか。実名主義のSNSがあれだけ流行るのは、そういうことだと思います。

――ツイッターでは「全国共有電話帳は、日本の個人情報保護制度や、機密管理、ソフトウェア規制の枠組みのバカバカしさを如実に表現したものです」とも発言されていますが、具体的にはアプリのどのような点でその矛盾を突いているのでしょうか。

勝手に電話帳の中身をサーバーに送信していたアプリ「The Movie」シリーズが不正指令電磁的記録供用だと言われて警察に捜索されましたよね。あの罪の要件は、人の意図しない動作をするプログラムを作ったからということです。では、人に対して説明通りに電話帳の中身を共有するアプリを作ったらどうなるか。結果はご覧の通りですが、これだけでもバカバカしいと思いませんか?

―― LINEも電話帳データの利用が大きな批判にさらされましたが、結局は爆発的に普及しましたね。

仮にです。私がLINEやcommのようなSNSアプリを作って、そのためにユーザーの電話帳の中身を取得したとします。うまい具合にいって、何百万単位のユーザーを獲得でき、何千万件以上の電話帳データを取得できたと。それを他のデータと混ぜるなり、加工して、出処を分からないようにして、悪用する気満々の人たちに無断で売ると。そういう事をやっても、簡単にはバレないでしょう。回線の向こうで何が行われているかは簡単には分からないのです。私はそういうあくどいことをする気は毛頭ありませんが、理屈としては可能です。だから、ペニオクなんて99%詐欺なのに、証拠がないからほとんどの業者は逃げ切りましたよね。バレる心配がなければ、平気でユーザーに嘘をつく業者はたくさんいる。

――現状の法律がネット時代に追いつけていないのは、よく問題視されていますね

本当に悪い人が野放しになって、中高生のネットゲームへの不正アクセスみたいな、くだらない事ばかりがよく摘発されるような、今の制度の枠組みは馬鹿げています。よく警察が批判されていますが、警察だけが悪いのではなくて、欠陥のある制度の中で動いているのだから、問題が起こるのは当然です。法律や警察は万能ではないのだから、そこでどうにもならないことは、民間の力で自衛しないといけないのですよ。あるいは、くだらないことでいちいち騒がない、スルー力も必要です。

――アプリの規約をよく読まずにインストールしてしまったユーザーもいるのではないかと思いますが、その点はどう考えていますか?

まず、アプリの規約を読まずにインストールしてしまったユーザーがいるのかどうかも私は知りません。そもそも「規約を読まずに」という話が出てくるのは、「ユーザーの意図に沿わないプログラムはウイルスだ!」→「ユーザーに説明してありますけど」→「説明を読まないユーザーもいる!」と、何とか私を犯罪者にしたい人のこじつけではないでしょうか。論点はそこではなくて、要は電話帳共有するようなプログラムは気持ちが悪いという人が私を批判する。10回くらいダイアログで確認するようにしても、また別のいちゃもんを考えるでしょうね。

――ユーザーの電話帳から「パパ」「愛人」といった名前で電話番号や住所などが共有される事態も発生しています。彼らが規約を読まずにインストールしてしまった可能性はないでしょうか。

規約を読まない可能性も考えないといけないなら、世の中の多くのソフトウェアがウイルスですよ。ウェブブラウザだって、リファラーやクッキーのような仕組みをどれだけの人が理解しているでしょうかね。全国共有電話帳は言われるほど危険なアプリではなくて、むしろ危険を回避するために有用ですよ。例えば、不明な番号から電話がかかってきたら、その番号で検索してみるという使い方です。

―― このアプリは法的には問題ないと思われますか? その根拠をお聞かせください。

法的に問題がないと思うのは、誰も法的な問題を明確に指摘できないからです。法的に問題があると思う人は、なぜ問題がないかを私に問うのではなくて、どの法律の何条により問題があるのかを示すべきです。そして、なぜその法律が作られたのか、憲法に照らして、あるいは現実の問題として、その法律に実効性があるのか考えるべきでしょう。一人よがりな考えで他人を犯罪者呼ばわりするような人は、例えば最近話題になった警察の誤認逮捕のようなことを笑えないと思いますよ。もしそういう人が検察官なら、冤罪を作ることになるわけですから。

鳥取ループ氏としては、このアプリの開発の動機として、現在の法律や情報管理などの矛盾点やバカバカしさを指摘する問題提起の意図もあったようだ。その方法としては過激すぎる感も否めないが、現実問題としてネットの普及に追いつけない現行法の矛盾は存在する。いずれにせよ、「全国共有電話帳」に限らず、個人情報を利用するアプリの取扱いには十分に注意するべきだろう。(佐藤勇馬)

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佐藤 勇馬

フリーライター。個人ニュースサイト運営中の2004年ごろに商業誌にライターとしてスカウトされて以来、WEBや雑誌などでネット、携帯電話、芸能、事件、サブカル、マンガ、宗教問題などに関する記事を執筆している。媒体によっては、PN「ローリングクレイドル」で執筆することも。今年1月に著書『ケータイ廃人』(データハウス)を上梓。 Twitterアカウントは @rollingcradle

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