コラム

「無料配信」ラッシュが出版業界を変える!!?

 

3月11日に発生した東日本大震災の被災地で雑誌の配送遅れや配本不足が起きていることを踏まえ、各大手出版社がコミック誌などを特別無料配信している。

 

 

集英社は『週刊少年ジャンプ』の第15号、第16号を配信。講談社も『週刊少年マガジン』『週刊モーニング』『ヤングマガジン』などを配信し、小学館も『週刊少年サンデー』の配信を開始した。秋田書店も『週刊少年チャンピオン』の配信を予定しており、コミック誌以外ではアスキーメディアワークスが『週刊アスキー』をPDFで無料配信し、物流が安定するまで続ける見込みだという。

 

 

雑誌を楽しみにしていた被災者のための緊急措置という形だが、安定した配本の見込みが立たないのは物流の混乱だけでなく、大震災による紙不足やインク不足の影響が大きいことも否定できない事実だ。日本製紙の石巻工場(宮城県石巻市)や三菱製紙の八戸工場(青森県八戸市)など、大きなシェアを占める製紙工場が津波で被災し、インクの原料を製造する石油化学工場も火災や倉庫の荷崩れなど数多く被害を受けた。

 

すでに深刻な影響が出ており、日本雑誌協会によると3月末時点で発売延期となった雑誌は234誌、発売中止となった雑誌は16誌。雑誌だけでなく、発売延期になったコミックスや書籍も多数ある。大手印刷会社の工場も被災しており、出版にとって欠かせない全ての要素が連鎖して危機的状況に陥っている。

 

「とにかく紙がない、インクがないの大騒ぎ。印刷会社も音を上げる寸前といった状況で、大手の担当に泣きついても今は厳しいと言うばかりです。現在は代替原料でインク不足を補っているため、その影響でコスト高になっていることも、いずれ影響が出てきそうで心配です」(某出版社の社員)

 

本作りの全ての工程において震災の影響を受けた出版業界だが、電子書籍であれば紙やインクは必要なく、物流の混乱も関係ない。一時期、出版業界では『電子書籍が紙に勝てるようになるのは遥か遠い未来」といわれていた。新たなビジネスチャンスとして各社がこぞって電子書籍に参入したが、大きな成果を上げられた企業が一つもなかったためだ。だが、今回の震災によって紙媒体の重大な欠点が露呈したことで、電子書籍に再び業界の注目が集まっている。

 

「雑誌を支えているのは広告料であり、マンガ雑誌は広告料に加えてコミックスの売り上げで成り立っている。雑誌が出なければ広告料も入らないし、連載が滞ればコミックスも出せない。マンガ誌は読まずにコミックスだけを買っているという読者は、驚くほど多い。『コミックスと広告のために雑誌を出す』ということを第一に考えれば、雑誌が紙である必要はない。紙やインクの供給状態やコストの上下の影響を受けない電子書籍化は、将来的な選択肢として十分に可能性があるでしょう。今回、各社がマンガ雑誌の無料配信に踏み切った背景には、そういった将来に向けての実験の意味も含まれているのでは」(出版関係者)

 

未曽有の大災害で様々な価値観が崩壊したが、変わりそうで変わらずにいた出版業界も、大震災によって変化を迫られているのかもしれない。

(文・佐藤勇馬)

 

参考:各社の「無料配信」対応サイト

集英社「週刊少年ジャンプ 特別無料配信について

小学館「クラブサンデー」

講談社「コミックプラス

週刊アスキーPDF版

※「週刊アスキー」のみスマートフォンにも対応。その他は非対応。

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佐藤 勇馬

フリーライター。個人ニュースサイト運営中の2004年ごろに商業誌にライターとしてスカウトされて以来、WEBや雑誌などでネット、携帯電話、芸能、事件、サブカル、マンガ、宗教問題などに関する記事を執筆している。媒体によっては、PN「ローリングクレイドル」で執筆することも。今年1月に著書『ケータイ廃人』(データハウス)を上梓。 Twitterアカウントは @rollingcradle

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